Concept

コンセプト

Prologue

土地の記憶

吉田は、決して“たたらの里”の一語で語りきれる場所ではありません。
中国山地の深い山懐に、霧と清流に包まれるように息づく、出雲の中山間。
斐伊川の上流を辿れば、そこには神話と鉄の記憶が、幾重にも重なっています。

遠い昔、この川の上流で、須佐之男命がヤマタノオロチを退治したと伝えられています。
大蛇の尾から現れたのは、のちに三種の神器のひとつに数えられる神剣・草薙。
古代出雲王国の記憶と神話に刻まれた鉄の煌めきが、この土地の原風景です。

やがて時代は下り、この山里には「たたら」の火が灯りました。
砂鉄と木炭を合わせ、三日三晩の操業で鋼を生み出す、日本古来の製鉄技術。
鉄穴流しと森林循環を支えに、たたらは1400年の生業として息づいていったのです。

その中心のひとつが、吉田町の菅谷たたら山内でした。
全国で唯一、江戸期の「高殿」様式を現存し、国の重要有形民俗文化財として、
日本遺産「出雲國たたら風土記」の中核をなしています。
村下と呼ばれる職人頭のもと、鉄師・田部家が統べた一帯は、
最盛期には一万を超える人々が暮らし、砂鉄を生み、木炭を焼き、鉄を打つ——
鉄と炎の企業城下町を形成していました。

しかし大正の終わり、洋鉄の普及とともに、たたらの火は静かに役目を終えます。
1400年続いた技術が、わずか数十年のうちに、主流の座を譲ったのです。
それでも、山と森、川と暮らしは、この地に確かに残り続けました。
のちにスタジオジブリ『もののけ姫』のたたら場のモデルとも謳われ、
失われたはずの記憶は、現代の物語へと静かに引き継がれています。

――そんな神話と鉄の記憶を、築150年の旧庄屋屋敷に宿したのが、若槻 吉田奥出雲です。

ここ若槻は、吉田が紡いできた、土地の記憶のアーカイブ。
宿やレストランで触れる一瞬一瞬が、この地の歴史や風土と重なり合う体験となります。

ここで時間を過ごすことは、ただ泊まることではありません。
土地の記憶を五感で読み解く、大人の旅のはじまりなのです。

若槻 吉田奥出雲 ― 夜景

Our Context

屋敷と、この土地と
若槻 吉田奥出雲

「若槻」は、吉田の地で古くから営まれていた屋号「若槻屋」を承継したもの。
かつて地域の方々が共同出資した株式会社鉄の歴史村が運営されていた、
ツーリズムの宿としての歴史と想いを、屋号とともに引き継がせていただきました。

舞台は、築150年の旧庄屋屋敷。
かつて、鉄師・田部家が統べた企業城下町の中心に建ち、
時代の記憶を静かに湛えてきた家屋です。

その空間に、たたら製鉄をモチーフにした設えや、出雲の勾玉、
陰翳礼讃の美学を宿しました。
照明は落とされ、古い梁と障子のあいだに、光と影がゆるやかに語りかけます。

食材は、地域の生産者の方々から。
雲南の山里、奥出雲の米と野菜、そして日本海の魚介。
屋敷の手入れは、地元の職人とともに。
一皿の向こうにも、一本の柱の向こうにも、この土地を耕してきた方々の手がある——。
若槻は、そうして織り上げられていく宿です。

この屋敷に灯を戻し続けることが、
この土地の時間を、次の100年へと受け渡すことに繋がっていく。
わたしたちは、そう信じています。